だるまさんがころんだ III

詩:矢川澄子 曲:長谷部雅彦

 この混声合唱組曲を演奏することになり、コール・ゆうぶんげんにて練習を重ね、実際に歌ってゆく中でこの曲の持つ魅力、詩の持つ魅力、そういうものが色々はっきりしてきました。中でもこの第3曲は組曲の中でも私にとって最も魅力ある曲だと感じるようになりました。この度は私が感じているこの曲の魅力を記述させてください。文章はまず、音楽に沿って順番にその各々の魅力について記述した後、詩の構成、曲の構成としての全体の魅力について、、という順序で進めさせて下さい。(2002/01/02 文責:よしはる)

 第1、2、4曲と同じように「だるまさんがころんだ」で始まった音楽は4小節目に至りその様相を大きく変えます。空虚な5度を基本とし、少し虚ろで、しかしエネルギーを内在したハミングで女声部から音楽が始まります。(譜例1)

譜例1この冒頭部では(12/8)という、常日頃良く使われている拍子ではない拍子を使われていることに注目したい。

 12/8拍子というのは、その名の通り8分音符12個から1つの小節が形成される、という拍子であり、他にもマタイ受難より「ペテロ背反」等にも用いられている拍子である。この12/8の特徴は、以下の2つと考えている。

これらの特性を上手く活かし、大バッハの「ペテロ背反」もひたすら音楽は引きずられるような感覚を聞く者に与えるのだと思っている。「ペテロ背反」は12/8の3/8×4という要素が分かり易い楽譜になっていて流れてはいるのだが、その流れは重たく、長く引きずるものを感じさせる。

さて、この拍子がだるまさんIIIでは、3/8×4という要素を活かし付点四分音符中心で音楽が構築されるのだが8分音符は殆ど登場しない。それ故音楽は流れよりも重たさ、よどみ、といったものをより強く聞く者に与える様になっている。更に、A部、B部に代表されるように、基本拍から逸脱した不可分の音符を導入することによりその音楽の流れを押し留め、その音楽の流れに厚みを持たせる構造となっている。

 この様にして、だるまさん第3曲は少し虚ろで、重たく、厚い音楽が始まり、だるまさんの内部に目覚めた何かとのせめぎあいや、戦い、苦しみを歌い始め、それは16小節に至り、音楽的な一つの頂点を形成する。


 そのせめぎあい、戦い、苦しみを通して、だるまさんは様々なことを悟るのである。その悟った何かの歌が17小節から本当に美しく歌い始められる。(譜例2)

譜例2

 この素朴なフレーズは("だるまさん")B→C→Dという上行の動機Aと("しらぬ")G→Cという上行の動機Bから成立していると考えることが出来ると思う。この動機A,Bがここから様々な形で繰り広げられ、それらに色んな色合いの音が与えられたり音形のちょっとしたアレンジが加えられ、更に男声パートのハミングによる和音、響きの導入もあり、音楽はいっそう豊かな物となってゆく。

 この辺り、部分的にc-mol(ハ短調)と捉えると分かり易いのでその様に文章を進めます。まず譜例2の形で提示されたフレーズは次にサブドミナント(F)音を中心としたフレーズ「だるまさんしかしらぬ だるまさんのかなしみ」により新たな響きを得て、音楽にその色合いを増す。それは単にサブドミナントによる色合い、というのみでなく、IV→II(Vv)→V→I(dur)→I(mol)という少々複雑な動きをし、♭(フラット)を基調とした響きの中に#(シャープ)の響きを持ち込み、それがFis→Gという解決をし、そこからもう一つ解決へと向かう、という面白味もあり、短調故の面白味もあり、だるまさんのみが知る悲しみや喜びが歌われるのです。

 その後、だるまさんは色んな想いを持ち、色んな物をあじわい、だるまさんになりきる(27〜42小節)のです。この部分でも様々な響きを、和声を織り込み、歌はしっかりと、歌われます。そして42小節に至り、Cis-mol(嬰ハ短調)と同種調のE-dur(ホ長調)主和音に解決されるところもちょっとしたミソなのでしょうか^^


譜例3 こうして、自分の内に目覚めたものとの苦闘の中で、だるまさんはだるまさんになりきるのですが、それが以前までの前途揚々としていただるまさんとは違うことを周囲の人々が察知し、だるまさんに呼びかけます。

「おかしいぞ」「どうしたんだ」「やりなおせ」「せめるな」

 周囲は色んな事をだるまさんに語りかけます。譜例3からも伺えますが、この部分は合唱による和声とソロによる語り、という形で音楽が作られています。ソロによる語りという形を採ることにより、第3者からの語りかけという事がよりはっきりと伺える楽譜になっています。こうした種類の豊富さによって音楽はより立体感のある豊かな物になっていると感じられます。

 だるまさんの変貌に驚いた人達の外からの働きかけにも関わらず、だるまさんはその自らの限界を悟ることになります。


譜例4こうして譜例1にて始まっただるまさんの音楽も再び12/8拍子に、調性も同じCis-mol(嬰ハ長調)へと戻ってきます。(譜例4参照)

調性、拍子は同じですが、今度は譜例1の音楽より動きがあり、譜例1ほどの緊張感はありません。

 だるまさんの若く、意気揚々としていた時期は終わったのです。その時期が過ぎた事を本人も知り、その事とあらがう中で悟ったのでしょう。

 こうして穏やかな譜例4の部分を経て、音楽は4/4拍子に戻り第3曲目の終止へと向かいます。

 だるまさん、第3曲の持つ魅力について、時系列的に私が感じたことをまとめてゆくと、こんな感じになります。では、次に、この第3曲の全体像について振り返ってみましょう。


だるまさん第3曲の全体像

 だるまさんがころんだ は10文字の詩が10行を段落とし、3つの段落で1つの章を構成するという構造になっています。その構造を表にまとめてみます。

  小節数 音楽
第1部 1〜3/
4〜16
だるまさんの内部に生まれた何かがだるまさんを苦闘に引きずり込む。 譜例1に示される緊張感のみなぎる音楽。(第3曲の音楽的な頂点を形成する。)
第2部 17〜42 だるまさんはだるまさんしか味わい得ないすべてのものをあじわい、だるまさんになりきる。 譜例2に示される悲しく、そして美しい音楽。
第3部 43〜47/
48〜52/
53〜最後
第3者が再びだるまさんを元気づけようとする。

しかし、自らの限界を悟っただるまさんは、、、
譜例3に示される語り+合唱(和声)
譜例4
終止

 だるまさん第3曲は、その自らの限界を悟っただるまさんの悲しみというか、悟りを歌った部分であり、その悲しさというのは、第1部、2部にて自らの内の戦いで悟ってしまったものがあり、それが第3者から再び呼び起こそうとされるのだが、やはり悟りに入ってしまっただるまさんは、、、という部分にもその悲しみはあるのだと思う。言い方を変えると第1部で頂点に達し、第2部でそれが落ち着くのだが、もうひと山ある、、という構造になっており、その構造も悲しさをより強く印象づけるのではないだろうか?

 このだるまさん第3曲は詩の中でももっとも色々な要素があり、色々な見せ場がある詩なのかもしれない。第3曲は「だるまさん」の中では元気の良い1番、明るく、前途揚々としている第2曲、と違い、ちょっと地味な様な気もする。しかし、その全体構成のしっかりしている点、特に第2部の美しさ、等、私はかなりこの曲が好きで、、。そんな事もあり、とりあえず最初にこの第1曲について感じることをまとめたかった、、というところで纏めてみました。

 今年(2002年3月)私も団員である、コール・ゆうぶんげんにて再度演奏を行い、レコーディングをする予定になっている。この様なステキな曲に出会えたこと、その曲を初演させて頂いたこと、また、その曲を歌い、リリースされるかもしれない^^という事、、。この曲は本当に私にとっても思い出深い曲となっている。皆さん、是非一度、この楽譜、手にとって見て下さい。いい楽譜ですよ。。あと、CDが出版されることになれば、是非一度聞いてみて下さい。MIDIデータを聞きたい方は作曲者の長谷部さんのページへどうぞ。本日はとりあえず、、、。

よしはる